シンエイ通信【令和7年10月1日作成 190号】
シンエイ通信【令和7年10月1日作成 190号】
◇九州木材商況 着工戸数は改善
九州・沖縄8県の7月の新設住宅着工戸数は合計7064戸で前年同月比6%減であった。改正建築基準法が施行した4月以降は前年比20%以上の大幅な減少が続いていたが、7月は微減まで回復した。審査の渋滞が解消されたことが主な要因だ。
九州北部の地場住宅会社関係者は、着工戸数の落ち込みは審査待ちや駆け込み需要の影響による一時的なものと指摘し、受注は大きくは落ちていないという。プレカット工場は安定して仕事を確保できているところと受注が低迷しているところで二極化しているが、苦戦が続く工場も9月は少し回復する見通しだ。
製品需要は低調だが、秋需の兆しが見えてきた。9月以降の受注や問い合わせが増えてきたおり、荷動き改善が期待される。
ただ、製品価格はほぼ横ばいで、原木高製品安が続いている。
メーカーは3月~5月前半にかけて荷動きが良かった影響で売れ行き不振の中でも在庫は大きく膨らんでいなかったため、本当に厳しくなるのはこれからだという。メーカー関係者は「荷動きが悪く値上げしづらいが、上げていかなければ採算が合わない」と話す。荷動きが上向いたタイミングでの製品値上げを模索している。
【国産構造材】
南九州でもKD化進む
7月の着工数は6月までに比べ回復したものの、製品需要の低迷は8月まで続いた。
メーカーは、製品市場共に9月以降の受注や問い合わせは増えてきており、メーカー関係者は「本格的に動き出しそうだ」と話す。建築基準法改正により、これまでグリン材が多かった南九州でもKD化が進んでいる。
宮崎県の市場ではKD材の割合が3~4割から5割まで上昇してきた。
製品価格はほぼ横ばい。量産工場関係者は「正直なところ5000円/㎥上げたいが、実需が伴わないなか難しい」と話す。
【国産羽柄材】
価格は横ばい
羽柄材の荷動きは、リフォーム向けが堅調なことから構造材よりは好調だ。ただ、新築戸建て向けは不振で、非住宅向けなどが引っ張っている。丸太高製品安により、メーカーの採算は悪化しており、特に中堅メーカーが厳しいのではないかとの指摘が聞かれた。建築基準法改正でKD化が進んだ宮崎県では、杉小割はKD・グリン共に引き合いがあるが、同間柱はグリンが売りづらい。製品価格はほぼ横ばいで、特にグリン材の引き合いは弱まっている。
【外材】
横架材需給見合う
プレカット工場の稼働率は徐々に回復しているが、建築確認申請が遅れていた分の仕事が出てきているためで、需要自体が増えたわけではないとの声。
外材横架材も、欧州産構造用集成材の入荷は少ないままだが、米松平角や米松・杉異樹種構造用集成材、また国内産欧州材構造用集成材で対応できている。価格は全般に横ばい。
集成管柱は、杉の荷動きが堅調。Wウッド輸入製品の入荷が不安定なうえ、価格面でも杉に優位性がある。小割材は米材、アカ松とも居所高のままで、荷動きは鈍い。
【集成材】
乏しい荷動き、需給緩和
着工戸数の落ち込みを背景に、構造材の需要は6月以降、全体的に低調な状態が続いている。その中で、年初から比較的堅調に推移してきた国内産構造用集成材の引き合いも、8月は一服した。
9月以降は、上半期に比べ需要が多少上向くとの見通しは多かったが、9月中旬時点でその手応えにはばらつきが見られる。国内の集成材メーカーでは、7月末に1社が生産を停止し、8月中旬に1社が火災で1ラインを焼失したため、小断面集成材を中心に国内産の供給能力が縮小した。ただ、需要の回復が見込みより遅れているため、一部の特殊品を除いて需給バランスへの影響は聞かれない。5月以降、輸入完製品の単月入荷量が1~4月に比べ増加したため、その在庫が重くなっている様子もある。内外産を合わせれば、構造用集成材の需給は緩和しているといれる。一部の住宅会社向けで引き合いが出てきた様子もあり、10月には全体的に十課が上向いてくるとの見方は多い。7月以降、記録的な円安が続いているため、Wウッド・Rウッドラミナのコスト上昇が続く見通しが固まった集成材メーカーは、4、7月に続き、10月を見据えてもう一段のコスト転嫁を図る動きを見せている。ただ、住宅会社からの販売価格に対する下押し圧力が続いているプレカット工場からは、これ以上の資材価格上昇は受け入れにくいとの声が強まっている。
【合板・建材】
需要薄く弱保合
戸建て住宅需要の停滞が続くなか、針葉樹構造用合板の引き合いは回復していない。価格も弱保合で横ばいが続いている。
プレカット工場、流通業者などは在庫補充の手当て。貸家重要は比較的堅調なため、他地域からの長尺合板の入荷は増加傾向。
今年は非住宅木造建築の現場数が少なめで、厚物合板の荷動きも横ばい。建築物の省エネ対策などを含めて底堅い荷動きにはあるが、儒教が見合っている。
輸入型枠用合板の荷動きは乏しく、価格は居所高で、夏場は弱含みに。流通業者は当用買いに徹している。故郷事業は木材以外の各種コストが上がっており、しわ寄せがきている部分もあるようだ。
◇10月は木材利用促進月間、全国でウッドデザイン賞コンクール開催
2021年10月に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では10月を「木材利用促進月間」、10月8日を「木材利用促進の日」と定めている。これを受け、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省は連携し、国民の木材利用への理解と関心を高めるための様々なイベントを全国各地で展開する。
10月3日には農林水産省が「第8回ウッド・チェンジ協議会本会合」を開催し、民間建築物における木材利用の課題や先進的な取り組みを共有。さらに会議終了後、協議会会員から今月の関連イベント情報が公表される予定だ。
10月10日には木材を活かした優れたデザインを表彰する「ウッドデザイン賞2025」の入賞作品を発表する。最優秀賞の発表は11月上旬、表彰式は12月10日に行う。10月24・25日には福岡で「WOOD DESIGN EXPERIENCE@福岡」を開催。木材の魅力を体感できる展示や体験企画が展開される。
10月28日には、東京都江東区の木材会館にて「令和7年度木材利用推進コンクール表彰式」が行われる。文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省などが後援し、優れた木材利用事例が表彰される。
◇一人親方の業務災害報告を義務化
厚生労働省はこのほど開いた労働政策審議会安全衛生分科会で、一人親方など個人事業者の業務上災害報告制度について審議を行い、「労働安全衛生規則」などの改正省令案を承認した。個人事業者が就業中の事故で死亡または4日以上の休業となった場合に、所轄労働基準監督署(以下、労基署)が情報を把握できるよう、必要事項の報告を義務付ける。改正省令は11月の公布、2027年1月1日の施行を予定している。
親方本人にも報告義務
省令案では、災害発生場所の直近上位の注文者(特定注文者)、あるいは災害発生場所管理事業者に対し、個人事業者の業務上の災害を把握した場合に、遅滞なく労基署に報告することを義務付ける。ただし、被災した個人事業主本人が報告できる状態にある場合は、まず本人が特定注文者や管理事業者に報告を行い、報告を受けた事業者が必要事項を把握した上で労基署に報告する。
一方、中小企業の事業主や役員の災害については、特定注文者などを通さずに所属企業が直接労基署に報告する。脳・心臓疾患・精神障害事案についても、個人事業主および中小企業の事業主・役員の所属会社が直接報告を行うことを可能とする。また報告したことを理由に、個人事業主らに不利益な取扱いをすることも禁じる。
電子申請での報告を原則に
労基署への報告は原則として、同省の入力支援サービスを活用した電子申請で行うが、当面の間は書面による書類提出も認める。報告内容は、①報告者に関する情報(労働保険番号、事業場名、災害発生場所の事業場・工事名、元方事業者など)、②被災者に関する情報(氏名、年齢、性別、職種、経験期間、傷病名、傷病部位など)、③災害に関する情報(発生日時・場所、状況、原因など)、④その他(報告年月日、報告者の職・氏名)。
同報告制度の円滑な実施に向け、厚労省では今後、▽個人事業者に報告義務が生じる具体例▽不利益取扱いの具体例▽報告主体が災害発生の事実を知り得なかった場合の対応▽災害発生場所管理事業者が報告義務を負う災害の範囲▽報告対象とならない災害▽報告書の書式▽個人事業者や報告主体の関係者に対する周知―などについてとりまとめ、通達などで示す考えだ。
◇万博の「大屋根リング」 今後どうなる?
大阪・関西万博のシンボル、大屋根リング。万博の閉幕まで1か月を切る中、1周12キロのうち、およそ200メートルを保存することが決まりました。どうして一部なのか?閉幕後はどうなるのか?
大屋根リングとは
1周12キロ、高さ最大20メートルの大屋根リングは、ことし3月に「世界最大の木造建築物」として、ギネス世界記録にも認定されました。京都・清水寺にある「清水の舞台」のように、柱の穴に梁を通して格子状に組み立てる「貫(ぬき)」と呼ばれる伝統的な工法が用いられています。建設費は344億円で、開幕前には「世界一高い日傘」ともやゆされましたが、開幕後は、多くの来場者の心を捉え、名実ともに万博のシンボルになっています。
人気があるのに、解体する予定だったの?
大屋根リングは、開催期間が決まっている万博のために、あくまで一時的に建てられたもので、法律上は「仮設建築物」という扱いです。「耐震性」は確保されていますが、長く使うための「耐火性」や「防腐処理」が十分ではありません。
建設するときに、博覧会協会は会場の土地を所有する大阪市との間で「2027年3月までに、さら地にして返却する」という契約を結んでいました。
一転、保存することになったのはどうして?
具体的な検討が始まったのは、ことし4月です。万博の開幕が近づくにつれて大屋根リングへの関心も高まり、大阪府と市、国、経済界、そして博覧会協会との間で、閉幕後のリングのあり方を考える検討会がスタートしました。
特に、大阪府の吉村知事は保存に強いこだわりを見せてきました。「石にしがみついてでも、後世のために一部を残したい」
「なんとか一部でも残せないかと一生懸命、歯を食いしばって検討している」知事の発言からは、なみなみならぬ思いが伝わってきます。ただ、当初から関係者の足並みはそろっていませんでした。
何が問題だったの?
ずばり、最大の問題は改修や維持管理にかかるコストです。この費用を誰が負担するかについて、意見が分かれていました。
大屋根リングは、一部を残すだけでも改修に数十億円、さらに維持管理には10年間で10億円以上かかるとされていました。大阪府・市は、国や経済界にも協力を求めていました。自分たちだけで負担すれば、多額の税金を投入することになるため「府民・市民の理解を得るのは難しい」と主張していました。
▼経済界は、リングを残すことには理解を示しますが、一貫して「新たな負担には応じられない」としていました。
会場の建設費が予定より膨れ上がった際に、資金集めに尽力したのは経済界で、「これ以上、寄付をする余力はない」「責任を果たした」と訴えていました。
▼博覧会協会もリングの保存には「期待している」とする一方、「財源はない」と主張していました。
万博の収支が黒字になった場合の「剰余金」の活用も議論になりましたが、万博は終わっておらず「剰余金が発生するかは不明」としていました。
最終的に、関係者の意見はどうなった?
およそ5か月の議論を経て、大屋根リングは閉幕後も人がのぼれる「原型に近い形」で、北東部分の200メートルを保存することで合意しました。そして会議では、保存するリングとその周辺のエリアを大阪市が「市営公園」として整備していくことを確認しました。検討会では、南側の350メートルを残す案も出されましたが、▽コストが抑えられること、▽夢洲駅から近くて利便性が高いこと、▽南側は埋め立て工事が計画されていて開発されるまでに相当な時間がかかることから北東案が採用されたということです。
公園になるのはどうして?
当初、大阪府・市は、リングの活用を義務づける形で会場跡地の開発を行う企業を公募することを検討していました。この企業に改修や管理も担ってもらう予定でしたが、企業にとって重要な判断材料である「木材がどの程度傷んでいるか」の調査に想定以上の時間がかかることがわかりました。結果によっては改修費は大きく上振れすることもあり、不確定な要素が多い中で、民間企業からの応募は難しいと判断し、市が管理することになりました。公園として整備する3.3ヘクタール以外の跡地については、予定どおり開発を行う民間企業を募集する方針です。