シンエイ通信【令和5年11月1日作成 167号】
シンエイ通信【令和5年11月1日作成 167号】
◇九州木材商況
九州・沖縄8県の8月の新設住宅着工戸数は7298戸で、前年同月比19%程度減少している。
秋需の気配とまでは言えないものの、9月以降の仕事量は増加傾向にある。プレカット、流通などの在庫調整が徐々に進み始めたことで、製材メーカーの構造材の販売量は上向いている。9月に行われた各地の製品市場特別市でも、単価を保ちながら製品は一通り手当された。
ただ、需要が11月以降も増えていくことへの期待感は高まっていない。流通関係者からは、「今は暇ではないが、いつ再び失速するかわからない視界不良な状況だ」との声が聞かれる。
中国木材が米松製品の受注制限を発表した後、代替品として九州では市場の限られる桧KD小割類などに、九州以外の地域を含め問い合わせが増えている。ただ、九州では製品需要にひっ迫感がないうえ、杉をはじめとする国産材で補えるため、ほかの地域より影響は少ないとみられる。
国産材製品価格は、杉KD柱角など横ばい。豪雨の影響等により原木価格は杉、桧ともに全面高で、製材メーカーとしては値下げの余地はない。
【国産構造材】
住宅受注の減少による製品需要の低迷は続いているが、9月以降の荷動きは若干上向いている。ただ、杉集成管柱と競合する杉KD柱は依然として引き合いが弱い。
販売店関係者によると、非住宅向けには安定した引き合いがあり、公共物件向けの出荷以外でもJAS認証材を求めるケースが増えているという。
プレカット工場は受注が二極化しているため、順調に稼働を進める工場と取引してりる製材メーカーは、杉KD柱以外は売れ行きが好調だ。
【国産羽柄材】
リフォーム向けで需要がある羽柄材は、構造材と比較して荷動きが良い。ただ、全体として製品の荷動きが鈍い状況に対し、出材減により丸太価格は上昇している。そのため、メーカーは採算が悪化している。
九州でも都市部を中心にグリン材からKD材への移行が年々進み、製品市場では需要が少ないグリン材の集荷が減少する一方、KD材の集荷量は多い。しばらく製品価格が変わっていない製品市場も多く、現時点が底値にあるとの見方が強い。
【外材】
九州は以前から国産材がメーンの市場であるため、価格を調整する際の参考として外材製品と杉、桧製品を比較してきた。Wウッド集成管柱や同KD間柱は、国内への入荷量が減少したが、その影響は少ないとみられる。
米松製品価格は横ばいだが、中国木材の米松製品受注制限が引き金になり、値上げの可能性もでてきた。
【集成材】
9月中旬から始まった中国木材の米松受注制限を受けて、主に米松ムクKD平角からRウッド及びWウッド集成平角への代替需要が増加している。
米松製品の値上げが打ち出されて以降、代替需要の勢いは加速しているとの声もある。国内の集成材メーカーは、昨夏から続けてきた減産体制を切り替えたり材業を増やしたりして、徐々に生産量を増やしている。ただ、減産が続いたことで、フル生産に耐えるだけの人手やラミナ在庫がないこともあり、増産できる数量は今のところ限定的だ。
想定外の需要増加を背景に、昨夏以降、需給バランスが崩れ軟調だった集成材の相場も引き締まり、安値が徐々に姿を消している。
特に、Rウッド及びWウッド集成材は現状のコスト環境では採算割れの厳しい水準で、メーカーは「赤字で増産はできない」と値上げムードをつよめている。一方、住宅着工数が低迷するなかで、プレカット工場からは住宅会社への値上げ交渉で苦戦を強いられているの声も聞かれる。
【合板・建材】
合板メーカーは荷動きに合わせた生産調整を続けている。そのため、メーカーによると在庫は適正に保たれているという。
針葉樹構造用合板の価格は変わらず横ばい。少ない住宅受注とともに低調な荷動きが続いているが、9月以降は若干上向いている。
九州南部の建材メーカーでは、鈍い荷動きが続いているという。あるメーカーは住宅会社が主催する顧客向けイベントに出展し、住宅会社の標準プランで選ぶことができる様々な色味の製品を展示していた。桧ムクフローリングはクリアタイプやグレーが人気だという。
◇LCCM住宅整備推進事業
国土交通省は10月16日から、2023年度「LCCM住宅整備推進事業」の第二回募集を始めた。新築のLCCM住宅を支援する制度だ。
要件は、ZEH水準の断熱性能を満たし、再生可能エネルギーを除き1次エネルギー消費量が現行の省エネ基準値から25%以上削減されているもの。ライフサイクル全体のCO2排出量の算定結果がゼロ以下であることなど。補助対象費用や補助率は、設計費と建設工事等における補助対象工事のかかり増し費用の合計額の2分の1。補助限度額は1戸当たり140万円。申請期間は24年1月19日まで。ただし予算によって早期の受付終了の場合もある。詳細は「LCCM住宅整備推進事業実施支援室」のHPを参照。
◇中国木材 11月から米松製品値上げ
中国木材は、11月1日の納品分から米松製品(KD・グリン)の3000円~5000円(立法㍍)の値上げを実施すると発表。
輸送や生産コスト等の上昇を受けたものだという。中国木材は、鹿島工場製材棟の火災の影響で、9月から米松製品の70%~90%の受注制限を継続している。また、米松製品を4月に値上げして以来、市場では円安進行による米松丸太の調達コストや労働力確保のための人件費、さらには物流2024年問題に備えたコストなどが上昇している。
当初、これらの大幅なコスト高は、同社工場の量産により圧縮または吸収し、価格維持に努める計画だった。しかし、鹿島工場棟の火災により当初の計画遂行が難しくなったことから、今回の米松製品価格改定となった。
今回の値上げ幅は、ドライビーム正角・平角・KD小割・米松グリン正角・平角・米松グリン小割・桟木等が3000円(立法㍍)の値上げとなる見通しだ。
◇2024年4月から「再エネ説明義務」が開始 市町村が指定する区域内の建築物
2024年4月、改正建築物省エネ法の一部施行により、新たな制度が開始される。そのひとつが「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」だ。市町村が独自に再エネ設置を促進できる制度で、建築士にも再エネ設備について、建築主への説明義務が課せられる。市町村レベルでも脱炭素の動きが活発化する中、同制度に取り組む自治体も少なくないと予想されるため、工務店も市町村の動向を予想しながら、早めに対応の準備を進めておきたい。
2024年4月から始まる「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」は、2022年6月公布の改正建築物省エネ法で定められた新制度。都道府県ではなく、市町村が実施主体となる点が特徴で、制度の対象となる区域や建築物、再エネ設備は市町村が独自に定める。
対象となる区域内では建築士にも再エネの説明義務が課せられるが、取るべき対応は市町村によって異なってくる。自社の商圏内にある市町村が今後、どのように制度を活用していくか、今のうちから注視しておく必要がある。
同制度は市町村が、建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進に関する計画(以下「促進計画」)を作成し、建築物再生可能エネルギー利用促進区域(以下「促進区域」)を定める。促進区域内では、市町村が建築物への再エネ設備の設置を促進する、独自の措置を講じることを可能にする。
設置を促進する再エネ設備は太陽光やバイオマス、太陽熱利用などで、市町村が地域の実態に合わせて対象を定める。屋根置きの太陽光パネルのように建築物に構造上設置されているもののほか、設備系統が建築物と接続されている設備(カーポートに設置した太陽光発電など)も対象となる。
◇省エネ住宅の新築補助再開へ 価格高騰で、若年世帯を支援
国土交通省は、子育て世帯や若い夫婦を対象に、省エネ性能の高い住宅の新築支援を再開する方向で検討に入った。既存の補助事業の申請が好調で、予算枠を既に使い切ったため。住宅価格高騰の影響を受けやすい若年世帯の負担を引き続き軽減する。
政府が近くまとめる経済対策に盛り込み、2023年度補正予算案への費用計上を目指す。政府・与党内で事業規模などについて調整を進める。
◇木質構造用ねじに関するJISを制定 耐震性を考慮
経済産業省は10月20日、木質構造用ねじに関するJIS(日本産業規格)を制定したと発表した。脱炭素社会の実現に向け、中大規模木造建築物の普及が期待されているが、地震が多い日本では、壁や柱等の接合部の高強度や耐久性が求められている。特に、高接合力やコスト、施工の自由度等の観点から、木質構造用ねじが注目されているが、これまで、品質や検査方法等について定めた規格がなかったため、木材の種類や工法ごとに試験を行う必要があったことから、JISの制定が求められていた。
今回制定したJIS A5559(木質構造用ねじ)は、欧州の規格を参考にしつつ、耐震性を考慮した品質や検査方法等を規定した。
具体的には、①地震に対する強度や耐久性に関する品質として、繰返し曲げ回数や最大ねじりトルク等の機械的性質を規定。試験方法には、JIS A1503(木質構造用ねじの試験方法)を適用。②形状、寸法等を規定。国内市場が草創期であるため製造業者が自由に定められるようにしたが、一定以上の品質を確保するために、長さや径(太さ)等の各部の寸法は、表示寸法に対して、許容差を±2.5%の範囲内と規定。 ③取引当事者間の相互理解促進や取引の単純化のために、製品の呼び方、包装に表示すべき事項、試験報告書に記載すべき項目等を標準化――など。
経産省では今回の制定で、品質の向上や粗悪品の排除、建築物の設計者や施工業者等に対する信頼性の向上が期待されるとしている。
◇「一人親方の適正な働き方に関する説明会」オンライン開催
国土交通省は、11月12日、15日、22日に、オンライン形式で「一人親方の適正な働き方に関する説明会」を開催する。
建設技能者の処遇改善に向けて、2020年度から社会保険の加入が建設業許可の要件となったが、本来雇用されるべき技能者を一人親方として、社会保険の適用から免れようとする規制逃れの進行が懸念されている。そのため、国交省は今年7~10月に全国10都市の会場で「一人親方の適正な働き方に関する説明会」を開催し、各会場とも満員となっている。
オンライン説明会の参加対象者は、建設業の一人親方、建設事業者、建設業に関連する団体職員等。建設技能者だけでなく事務職でも参加可能。参加費は無料。回線の都合上、1開催あたり100人まで。
プログラムは、[1] 社会保険労務士「適切な社会保険加入について」▽社会保険の加入義務、加入手続き方法、▽社会保険加入の重要性、[2]国交省による「一人親方が安心して働ける環境整備に向けて」▽最近の課題、▽国交省の取り組み、▽建設キャリアアップシステムの登録について――などを予定している。
【開催日時】
◎11月12日(日)14時~15時30分(申込期限11月10日(金)17時)
◎11月15日(水)18時30分~20時(申込期限11月15日(水)0時)
◎11月22日(水)14時~15時30分(申込期限11月22日(水)0時)
◇アキレス、外壁を壊さず住みながら「断熱改修+耐震補強」ができる新工法
アキレスは11月1日、住みながら断熱改修と耐震補強を行うことができる木造住宅外壁向けの上張り断熱リフォーム工法「ソトダンプラス」を全国で発売する。
同社は2015年から、北海道科学大学名誉教授・福島明氏の指導のもと、木造住宅の効果的な断熱改修工法の研究に着手。
建物を壊すことなく、硬質ウレタンフォーム断熱材「キューワンボード」を既存住宅の外壁に上張りし、さらに構造用合板で補強することで断熱改修と耐震補強をあわせて実施する新工法を開発した。2016年からは北海道を中心に施工実績を重ねて工務店や住宅建材メーカーとともに工法をブラッシュアップし、今回「ソトダンプラス」として全国展開することになった。
新工法は、壁を解体・撤去するスケルトン改修と比べて工事の規模・期間・費用・廃材が抑えられ、生活空間に干渉せずに工事ができるため引っ越しや家具の配置変更などの必要がない。