シンエイ通信【令和3年5月1日作成 137号】
シンエイ通信【令和3年5月1日作成 137号】
◇第3次ウッドショックの波紋
九州・沖縄8県の今年1~2月の新設住宅着工数は合計1万3964戸で、前年比7%程度減少した。
住宅需要が低迷する裏で、他地域同様に供給量の少ない外材に加え同材の代替えとして引き合いが高まっている国産材製品のひっ迫感も強い。
大型プレカット工場は加工部材の手当てに苦労している。
九州内は既存の顧客への供給を優先する国産材製材工場、値上げの通りやすさを理由に、早くから関東・関西など大消費地向けへの出荷を増やす製材工場など、メーカー間でその対応が分かれていた。
各メーカーの乾燥材供給能力には限りがあるため、年間で原木消費量10万立方㍍以上の大型工場もスポット受注への対応は難しい。
九州内に複数のプレカット工場を持ち、全体で月間7000坪程度加工する地場有力プレカット社長は「現状受注量が多く仕事が詰まっているものの、ゴールデンウィーク以降の加工分は部材が手当てできるか?ギリギリの状況だ」と話す。同社では「工務店に迷惑かける」との理由から、今は大型非住宅物件の仕事は断っているという。既に工務店向けに納期遅延を通達しているプレカット工場もある。
加工部材の手当てがままならず、稼働率を落とすプレカットが今後増えるとの危機感は広がっている。
ただ、住宅需要が低調に推移するなか、プレカットの全体的な受注状況はまだら模様だ。
南九州地域の中小プレカットは、牛舎など畜産関係の加工を行うことで稼働率を維持している。
現状、国産材KD製品はすべての荷動きがよい。当社は外材からの代替の動きも他の部材に比べると鈍かった杉KD平角も、尺下サイズが動いている。ただ、販売店関係者からは、「そこまで大きい杉平角を使った経験がない大工・工務店もある」との声も聞く。
26日に行われた長崎県北木材市場の記念位置では、杉KD柱105ミリ角が7万2000円/立方㍍で落札された。(福岡PC工場)
他地域も、同間柱芯去り材や同小割など、そのほかの杉KD材も5万円後半で買われている。「5月の大型連休以降は杉乾燥材は5万円台では買えなくなるのではないか」との認識を多くの市場関係者が持っている。桧同土台は、7万台前半/立方㍍、邸別だと8万5000円/立方㍍以上での取引となっている。同筋違も米松KD材の代替品として動いている。
国産材製品価格は現状、一週間単位で値上がりしており、市場は販売店などからのまとまった量の注文に対応することは難しい。
特別市用にお製品を確保せずに売っていくとの考えで、大分県木材協同組合連合会大分市場と小倉市場は今後予定していた特別市をとりやめた。国産材製品の集荷に苦労している市場もある。
今月、製品集荷量を3月比で2割以上落としたと話す市場関係者は「ものを集めるには、大消費地に負けない価格で売ることが必要だ」と話した。
◇林野庁 木材不足で臨時情報交換会
林野庁は、現在の輸入供給減少と国産材への代替需要増加について、臨時の情報交換会を開いた。
輸入材、国産材の関係団体と住宅関係団体等が参加した。
プレカット工場や工務店からは、木材調達に苦労している、減産を余儀なくされているなど厳しい状況が伝えられた。
住宅側の団体は、日本木造住宅産業協会、JBN・全国工務店協会、全国木造住宅機械プレカット協会が参加した。住宅建築分野では今のところ、工事が遅れたり注文を断るような状況にはなっていないが、大手から中小事業者まで今後資材が入らないくなるのではないかとの危機感を抱いていることや、中小工務店では地域差はあるものの木材製品の調達が困難になりつつあることに加えて、事業者によっては施主との契約で価格転嫁できるようにしている場合もあるが、全体として活路が見えず厳しい状況であることなどが伝えられた。
プレカット工場も、輸入構造材の使用が多い関東・関西圏で材の調達に苦労しており、減産を余儀なくされているなど、かなり厳しい状況にあることが訴えられた。また、自社の国産製品で対応できている工場はフル稼働だが、国産材製品の供給能力を踏まえると木材不足は続くのではないか、国産材の丸太輸出を一時的にでも規制できないかとの声も聞かれた。
流通側の団体は、日本木材輸入協会や全日本木材市場連盟などが参加した。
輸入材の供給減少と価格急騰について、主因の一つである米国の住宅需要増は今年いっぱい続く可能性があることや、現在の需給動向が一過性なのか今後も続くのか見通しにくい、強度観点から、特に構造材は国産材で代替しにくく、全体として今後もタイトな状況が続くと見ているなどの意見が示されている。
木材加工側の団体は、全国木材組合連合会、日本合板工業組合連合会、日本集成材工業協同組合など。
山側の団体は、全国森林組合連合会や全国素材生産業協同組合連合会が出席。
加工側からは、国産材、輸入材を含めた木材製品の製造量は3月から増加しているものの、受注に対応しきれていないことや、製品価格は今後も上がる見通しであることなどが伝えられた。山側からは、国産材丸太は昨年の入荷制限の影響や、現在の需要増が一過性ではないかとの懸念もあり、出荷量が回復しきれていない状況のほか、一部の地域や樹種で原木不足が起こっていることが伝えられ、輸入材の代替とするためには採材方法も見直す必要があるため、川下との連携がより重要になるなどの意見が示された。
◇木材不足の情報精査
国土交通省は木材製品不足について、情報収集を進める。
業界関係者や団体から、住宅建設への危機感が多く寄せられている。
「米国の住宅着工増からコンテナ遅れ、輸入材の入荷減と価格高騰などを聞いている。ただ情報が錯綜し、人によって話が違うため精査している。このままでは新設住宅着工が大幅に遅れかねない事態も把握している。」
また地方の工務店などが木材の手当てに行き詰まり、地元の国会議員等に対応を求めだした。
そのため、国土交通省にも、地方の議員がら状況を確認する問い合わせが増えている。
◇太陽光の設置義務化提案
国は住宅への太陽光発電パネル設置義務化を提案している。4月19日に国土交通省、製材産業省、環境省が連携し、第一回「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策などのあり方検討会」を開いた。
2020年10月末の、菅義偉内閣総理大臣による2050年までのカーボンニュートラル宣言を受けたもの。6月下旬まで中・長期的な新築・既存住宅の省エネ対策について議論する。
3省は同宣言達成に向けた住宅部門の目標指数達成と、再生可能エネルギーの利用拡大を目指すため、太陽光発電設置義務化を提唱した。
環境省は、50年宣言を達成するためには30年までの10年間の取り組みが重要だとして、各地域の再生エネルギーを倍増させる脱炭素ドミノを生み出していくとの方向性を示す。19年度の発電電力量実績は年間1兆277億Kwhで、このうち再エネは1057億Kwh。環境省は住宅用太陽光や風力発電などの設備を増やすことで、最大で同2兆6186億Kwhのポテンシャルが存在すると試算した。このうち太陽光発電が5041億Kwh、陸上風力発電4539Kwh、洋上風力発電1兆5584億Kwhと試算している。今回の提案はこうした試算に基づいている。
ただ、委員会の意見は賛否両論で、慎重な見方の方が多かった。太陽光発電は地域や屋根形状によって発電効率が違い、積雪の多い地域では荷重対策も必要だ。発電や搭載するリスクを個人が背負うにもかかわらず、一律義務化は各住宅の条件を無視したものになる。
コロナ禍で住宅投資が減っているなかで、太陽光搭載は初期費用が増し、さらなる着工減につながりかねない。現状のFITの買取価格では採算があわないため搭載が減っており、「自家発電を補助する蓄電池導入に力を入れるべきではないか」という意見もあった。住宅以外にも太陽光発電が搭載されていない建物は膨大にあり、「もう住宅の屋根しか残っていないなら義務化も分かるが、霞が関の屋根にも載っていないのでは納得してもらえない」という指摘もあった。
◇2020年度の住宅着工、81.2万戸 10年ぶりの低水準
国土交通省は4月28日、2020年度の新設住宅着工戸数を発表した。前年度比8.1%減の81万2164戸で2年度連続の減少となった。
昨年5月の緊急事態宣言解除後は受注動向に持ち直しの傾向がみられたものの、過去10年間で最も低い水準となった。
持家は前年度比7.1%減の26万3097戸で2年連続の減少。1961年(昭和36年)の26万335戸以来の低水準となった。貸家は9.4%減の30万3018戸で4年度連続の減少。分譲住宅も7.9%減の23万9141戸で2年度連続の減少となった。うち戸建ては11.5%減の12万9351戸で6年度ぶりの減少、マンションは3.1%減の 10万8188戸で2年度連続の減少となった。
◇プレキャスト基礎の新工法を展開
住宅の地盤調査・建物検査を行うジャパンホームシールド(東京都墨田区)はこのほど、住宅基礎立上げ部の工場生産によって工期の短縮と品質向上を実現するプレキャスト基礎の新工法「アイランドベース」の販売を始めた。
春以降、現在の製造拠点15か所(月間生産300棟)を70箇所(年間生産1万棟)に拡大するなど事業拡大を計画中だ。
同社基礎事業部の中村亮さんは「これまでの多くの住宅現場では、地盤状態に応じた基礎設計が行われてこなかった」と課題を指摘。地盤調査・建物検査を行う同社が関わることで「地盤・基礎・躯体の一体的な構造計算」が可能となり、さらに「地盤の反力が基礎のスラブに与える影響を解析できることで、内部立ち上がり点数を減らしたことが、コスト低減にもつながった」とする。
アイランドベースは、スラブ打設時にプレキャスト基礎を同時に施工するので、これまで2~3週間かかっていた基礎工事の工期を1週間に短縮できるという。基礎の天端や外周仕上げなどの工程が不要となり効率化が実現するほか、基礎伏せ図も同社が作成するため、設計業務の負荷の軽減にもつながる、という。
現場施工ではないため、天候や職人の技術によるばらつきが発生しにくい。
コンクリートの耐久設計基準強度は30N/平方ミリメートルの長期仕様で経年劣化を抑制でき、日本建築センターの技術審査評定(BCJ評定LC0170-01)を取得済み。製品は製造評定を取得した工場から納品、研修を修了した認定施工店が施工する。
中村さんは「立ち上がり部分の減少で床下空間がひろがり、通気性や配管、点検などの課題がクリアできたのも大きい」と住宅のメンテンス性を高めるメリットについても説明する。